今月のくすり問答

薬の飲み方Q&A
その135(2018年9月号)
Q
貧血のお薬にはどんなものがあり、副作用はありますか?
A
代表的なお薬として鉄剤があります。
以前は鉄粉を固めたようなもので、胃の調子が悪くなる副作用がありましたが、最近はコーティングされたり、胃ではなく十二指腸で溶ける工夫がされるなど、胃腸障害も少なくなりました。

貧血とは?

貧血とは血液中の赤血球が基準値よりも減少した状態をいいます。
赤血球は全身の細胞に酸素を運ぶ働きをしているので、赤血球が不足する事で体内の細胞が酸欠状態になるため、特有の症状が現れます。

貧血の症状とは?

貧血の症状というと「立ちくらみ」を連想する方がたくさんいますが、立ちくらみは脳貧血と呼ばれ、貧血とは関係ありません。
貧血は急激に起こる事はなく、徐々に進行してきます。そのため症状もはっきりしたものがなく、なんとなく頭が痛かったり、肩がこったり、疲れやすかったり、顔色が悪かったりします。
貧血症状には意外な症状もたくさんあります。以下に症状の具体例を示します。自分に当てはまるものはありますか?


【体調に関する症状】
  • 疲れやすい
  • だるい
  • めまいがする
  • 動悸や息切れがする
  • 眠気
  • 吐き気
  • 胃痛
【頭痛や肩こりに関する症状】
  • 頭痛
  • 肩こりがある
  • 頭が重い
  • 顔色が悪い
【食事に関する症状】
  • 食べ物が飲み込みづらい
  • 口の端が切れる
  • 舌の表面がツルツル
  • 煎餅など硬いものを大量に食べたくなる
  • 酸味がしみる
【肌・髪・爪に関する症状】
  • 爪がスプーン状になる
  • 爪が割れやすい
  • 枝毛・抜け毛が増える
  • 肌がカサカサする

思い当たるものはありましたか?貧血といえば「めまい」や「だるさ」くらいに考えられがちですが、実際にはこれだけの症状があります。
貧血は血液の病気ですので、全身を駆けめぐる血液の調子が悪いと、体のあちこちに障害が出てもおかしくありません。


貧血の種類とは?

  • 鉄欠乏性貧血
  • 再生不良性貧血
  • 溶血性貧血
  • 悪性貧血
  • ビタミンB12と葉酸の欠乏
  • 赤芽球癆(せきがきゅうろう)
  • 骨髄異形成症候群(MDS)
  • 白血病

貧血の中で最も多い鉄欠乏性貧血が全体の7割を占め、鉄欠乏性貧血は、全身に酸素を運搬する赤血球を構成するヘモグロビンの減少が関わっています。
ヘモグロビンは鉄を原料としており、鉄分が不足する事で体内が酸素不足となることが原因です。しかし貧血の原因はそれだけではありません。赤血球をつくる事が困難になる、赤血球の寿命が短くなる、病気により慢性的に出血していることで起こるなど、多岐に渡ります。
原因によっては専門医の治療を受けなければ命にかかわるものもあるため、よくある病気だからと安易に考えることは大変危険です。


男性に現れたら危険なサイン!

生理で定期的に鉄分を失う女性と違い、男性は出血しない限り体内から鉄分を失うことはなく、血液を活発につくろうとする男性ホルモンの働きもあり、男性が貧血になる事は通常ありません。つまり、男性に貧血の症状が現れるという事は、体内のどこかで慢性的に出血しているということになり、次のような病気の可能性が高い確率で考えられます。

  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 胃がん
  • 大腸がん
  • 大腸ポリープ

このような消化器系疾患による出血がある場合、便の色が「黒色のタール便」や「赤褐色から鮮紅色の便」になります。
この便の色の違いは出血箇所によって異なります。胃や十二指腸で出血している場合は血液が胃酸や消化酵素と反応することで黒くなり、それが便に混ざることでタールのような黒色になります。
一方、大腸や肛門付近の痔から出血した場合は、血液の色が変わることなく便に混ざるため、赤褐色から鮮紅色の便が出るようになります。


鉄欠乏性貧血と食事

人間の体には全部で約4gほどの鉄が存在しますが、2/3は血液の中にあり、残りは肝臓や脾臓などに蓄えられています。また、鉄の一部は皮膚や粘膜の組織内にあります。
通常は食事から得られる鉄量と排泄する鉄量のバランスがとれていますが、何らかの原因で鉄が不足すると、まず蓄えられた鉄で不足分を補います。そのため、鉄が不足したからといってすぐに貧血の症状は現れません(この状態を隠れ貧血といいます)。しかし、貯蔵鉄を使い切ってしまうと赤血球が不足するようになり、症状が現れ始めます。
さらに組織に鉄分がなくなると、爪がスプーン状に反り返ったり、舌の表面がツルツルになるなど、鉄欠乏性による特有の症状が現れてきます。


貧血は偏食が招く一種の栄養障害

貧血にはさまざまな種類があり、その原因も多様にありますが、大部分の貧血は赤血球を造る際に欠かせない鉄やビタミンB12などの栄養が欠乏する事で起こっているといっても過言ではありません。
つまり、貧血は一部のものを除いていわば一種の栄養障害であり、貧血を予防する上で毎日の食事が重要になってきます。
1990年あたりを境に再び貧血になる人が増えてきました。この飽食の時代において貧血がまた増加する事は、食生活の変化が原因であることを意味しています。
私たちが日々摂取している食事から摂る事のできる鉄分量は、1000kcalあたり5~6mg程度とされています。私たちが一日当たりに必要な鉄分量は、厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に示されています(下表参照)。


鉄の食事摂取基準(mg/日)推奨量
年齢 男性 女性
月経なし 月経あり
15~17歳 9.5 7.0 10.5
18~29歳 7.0 6.0 10.5
30~49歳 7.5 6.5 10.5
50~69歳 7.5 6.5 10.5
70歳以上 7.0 6.0
妊娠初期 推奨量+2.5
妊娠中期・後期 推奨量+15
授乳期 推奨量+2.5

これによると、若い女性は一日当たり10.5mgの鉄が必要とされており、それを食事で補うためには一日当たり2000kcal分の食事を摂取する必要があります。近年は健康やダイエットのためにカロリーを制限する傾向にあり、それに伴って鉄分の摂取量も減少しているのが現状です。

貧血を改善するために鉄分を摂取しなければならない事は有名ですが、他にも血液を造るために必要な栄養素として、ビタミンB12、葉酸、ビタミンB6があります。

血をつくるのにビタミンB群は欠かせない

ビタミンB12は「赤いビタミン」とも呼ばれており、欠乏すると悪性貧血を引き起こしてしまいます。ビタミンB12はレバーなどの肉類、卵、牛乳などに多く含まれています。
葉酸はビタミンB群の1つで、レバーや貝類、キャベツやパセリ、ニンジン、トマトなどの野菜類、バナナやメロンなどの果物類に多く含まれています。
ビタミンB6はヘモグロビンを造る時に欠かせない栄養素です。ほうれん草、ピーナッツ、大豆、バナナなどに含まれています。
鉄欠乏性貧血を改善するためには、鉄分を積極的に摂取することが大切です。しかし、がんばって鉄分を摂取していても、鉄分の吸収を阻害する成分を一緒に摂取しているとすれば、せっかくの努力が無駄になってしまいます。
鉄分の吸収を阻害する成分の代表的なものに、カフェインやタンニン、シュウ酸があります。カフェインとタンニンはコーヒーや緑茶、紅茶に多く含まれており、腸管からの鉄分の吸収を阻害します。
鉄分の吸収を阻害するからといって、コーヒーや緑茶を飲んではいけない訳ではありません。食事中に飲んでしまうと食品中の鉄分の吸収を妨げてしまうため、食後30分~1時間経ってから飲むようにすると影響を抑えることができます。


鉄剤の服用

私たちの体に存在する鉄は、70%がヘモグロビンとして存在しており、残り30%は肝臓や脾臓、骨髄などに蓄えられた貯蔵鉄として存在しています。
体内で鉄が不足した場合はこの貯蔵鉄を使用するためすぐに鉄欠乏性貧血になることはありませんが、不足の状態が続くと貯蔵鉄が枯渇し貧血が起こります。
貯蔵鉄が枯渇してしまうと食事などで貯蔵鉄を回復する事は難しく、常に貧血が起こりやすい状態になります。そのため、貯蔵鉄が枯渇した鉄欠乏性貧血の治療には鉄剤を使用します。

鉄剤は吸収されやすいヘム鉄でできている

鉄剤とは精製した鉄粉を主原料にしたもので、塩化第一鉄やフマル酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウムなどの鉄化合物の鉄剤が一般的です。鉄剤には食事の中に含まれる鉄よりもはるかに大量の鉄を含んでおり、しかも吸収されやすいヘム鉄の状態なので、効率よく鉄を摂取する事ができます。
鉄剤の効果が現れるのは、体内での鉄の吸収は徐々に行われるため、鉄剤の服用は長期に及んでしまいます。一般的に鉄剤の効果が現れるのは、鉄量として1日100~150mgを2~3ヶ月服用してからの事です。
その頃になると肩こりや頭痛といった貧血の症状もすっかり消え、鉄欠乏性貧血は改善されます。しかし貧血の再発を防ぐためにも、さらに3ヶ月ほどは鉄剤を飲み続け、貯蔵鉄量を増やす必要があります。つまり、鉄剤の服用期間は半年ほどと考えておく必要があります。
この事を知らない場合、鉄剤の服用を開始してもすぐに効果が出ないからといって勝手に服用をやめてしまう人がいます。これではせっかく鉄剤で治る貧血も治らなくなってしまいます。
しかも鉄剤の服用中止を医師が知らない場合は、その後の治療判断に支障をきたすこともあります。また服用中止とは逆に、貧血を早く治したいからといって鉄剤の服用量を勝手に増やす事も問題です。医師に指示された鉄剤の服用期間と服用量をきちんと守るようにしましょう。

鉄剤で胃が悪くなると思い込まない

昔の鉄剤はまさに鉄粉を固めたようなもので、胃に負担がかかるものでした。しかし最近では飲みやすくて吸収効率の高い糖衣錠がほとんどで、胃に負担がかからないようにできています。
かし処方の段階で「胃が悪くなる事があります」といわれると、そのことが気になって精神的なものから胃痛を起こす人がいます。
逆に何もいわずに服用を開始した患者さんからは「胃が悪くなった」というコメントはほとんどないようです。
どうしても気になる方には胃薬が合わせて処方されますが、胃薬には鉄の吸収を妨げる作用があるので一緒に飲む事は避けるようにして下さい。まず鉄剤を飲んで、具合が悪いようなら胃薬を飲むようにしましょう。


茶でも水でもあまり影響がない

鉄剤と一緒にお茶やコーヒーを飲むと、鉄剤の効果が弱くなるといわれています。確かにお茶やコーヒーにはタンニンという物質が含まれており、これが鉄と結合してタンニン酸となることで吸収が妨げられます。
しかし、鉄剤をお茶やコーヒーと一緒に飲んでも大丈夫です。鉄剤を水で飲んだ場合とお茶で飲んだ場合の貧血改善効果を比較したところ、両者はまったく差がなかったという報告があります。
この理由は2つ考えられ、1つは鉄剤に含まれている鉄の量が50~100mgと、通常の食べ物から1日に摂取する鉄量10mgに比べてかなり多いということ、もう1つは鉄欠乏性貧血になると健康な時よりも腸管からの鉄の吸収がよくなるということです。
よって水で飲むかお茶で飲むか、あまり神経質になる必要はないと考えられます。ただし、タンニンが鉄の吸収を阻害する事は確かですので、避けられるなら避けたほうがいいでしょう。
大切なのは、タンニンの効果を気にするよりも処方どおりに鉄剤を飲む事です。