今月のくすり問答

薬の飲み方Q&A
その143(2019年5月号)
Q
尿もれは薬で治せますか?
A
尿もれには種類があり、症状の程度も様々です。タイプによっては薬で症状が改善します。
但し、お薬による治療は症状によって薬の種類や量を調整することが必要となりますので、専門の医師とよく相談することをお勧めします。

尿もれはなぜ起こる?

尿もれが起こりやすいのは、出産経験者、特に2回以上経験がある女性は、分娩時、骨盤底筋へのダメージが原因となり尿もれを起こす率が高くなります。また、肥満の人は腹圧性尿失禁を起こしやすく、減量すると改善することが報告されています。

40代の女性を対象とした尿もれ経験者に調査を行ったところ、8割以上の人が「せきやくしゃみをしたとき」と回答しています。 「スポーツや運動時」「大笑いしたとき」など腹部に圧力がかかった時が多く、その他としては「冷えたとき」「冬の時期」なども挙げられています。

尿もれの種類

尿もれは主に「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁(UUI)」、2つを合併した「混合性尿失禁」があります。

腹圧性尿失禁

症状:何かの拍子に お腹に力が入ると 、ちょっと 漏れてしまう。
咳やくしゃみ、大笑いをすると漏れる。重い荷物を持ち上げた時に漏れる。
原因:加齢や出産等による骨盤底筋のゆるみが原因。
治療:主に骨盤底筋のトレーニングで治療。

切迫性尿失禁(UUI)

症状:突然、強い尿意を感じ、トイレに間に合わずに漏れてしまう。
力を入れていないのに漏れる。トイレに駆け込もうとして、目の前で間に合わない。
原因:活動膀胱という病気により、膀胱が自分の意に反して収縮することが原因。
治療:薬物療法で膀胱の収縮を抑える治療に加え、医師の指導のもと行動療法(骨盤底筋のトレーニングや膀胱訓練)。

切迫性尿失禁(UUI)は必ず医師に相談しましょう。

女性に多い尿もれ

尿もれは男性よりも女性の方が多いとされています。その理由として、女性の尿道は男性に比べて短いことや、出産経験による骨盤底筋への影響があります。

女性の尿道は男性に比べて短い

男性の尿道は細く、出口までS字を描くように伸びているのに対し、女性の尿道は男性に比べて太くて短くなっています。出口まで直線的に伸びており、尿もれの起こりやすさの差を生んでいるようです。

出産経験による骨盤底筋への影響

腹圧性尿失禁が起こる原因に骨盤底筋のゆるみがあります。経膣分娩による出産で、骨盤底の筋肉と線維組織が大きく引っ張られてゆるむ等が原因となっているようです。
骨盤底筋が健康な状態であれば、ちょっとした運動などでお腹に力がかかっても骨盤底筋の組織が反射的に尿道口を締め、尿もれを防ぎます。しかし、骨盤底筋がゆるむと、尿道口をキュッと締めることができず、尿がもれてしまいます。
尿もれは骨盤底筋がゆるんでいるサインとも言えます。骨盤底筋トレーニングを習慣的に行い、尿ケア専用品の使用もよいでしょう。

骨盤底筋トレーニング
準備編:骨盤を正しい位置で使えるように骨盤底筋をきたえる感覚を身につけましょう。

骨盤揺らし

まずは、骨盤を正しい位置で使えるように骨盤を前傾⇔後傾姿勢にして、骨盤底筋をきたえる感覚を身につけましょう。

  1. 仰向けになり、膝を曲げる。
  2. おへそに乗せたビー玉を顔の方に転がすイメージで、骨盤を前傾させ、骨盤底筋を締める。
  3. おへそに乗せたビー玉をお尻のほうに転がすイメージで、骨盤を後傾させ、骨盤底筋を締める。
基本編:骨盤底筋をきたえる感覚を身につけた後は、基本でさらにきたえましょう。

骨盤ほぐし

骨盤底筋群をほぐす動きです。他の動きとセットで行いましょう。

  1. 正座をしてうでをゆったりと胸の前に伸ばし、手を組みます。
  2. お尻を浮かせ、正座を崩すように片方のお尻を床にトンとつける。できれば両膝をつけたままで行う。
  3. すぐにお尻を持ち上げ、反対側にトンとつく。リズミカルに繰り返す。お尻がつきにくい側はトントンと2回タッチさせる。

骨盤はさみ

特別な道具は必要なく、簡単に行えます。ボールが無い方は、クッションや枕を挟めばOK。クセになるくらい、こまめに行えば効果大です。

  1. 空気を抜き気味にしたボールを膝の間にはさみ、太ももが少しきついところまで膝を曲げます。
  2. 肩の力を抜き、ボールが落ちないように内ももに力を入れながら、腰を反らせてお尻を後ろへ。
  3. 背中を丸め、お尻をももの間にしまうようにお尻を前へ。おへそを絞り込むような感覚で。
応用編:基本編をマスターしたら、いよいよ応用編にチャレンジ!

骨盤はさみ(応用編)

腿も鍛えることができ、ヒップアップにも効果的なトレーニングです!

  1. 足を肩幅より大きく広げ、つま先を外側に向けて立ちます。
  2. 両膝を曲げてまっすぐ腰を落とし、股関節を開きます。膝が痛い人は、負担がかからない程度に。
  3. ナヨっとするイメージで脚を内股にして膝を内側に曲げ、猫背姿勢になります。このとき、お尻(骨盤底筋)を締めることを意識してください。
  4. 両膝を内側に曲げて内股にしたまま、息を吸いながら腰を反らします。姿勢は、お尻を軽く突き出すようなイメージです。
  5. 息を吐きながら、お尻をももにしまい込むようなイメージで、お尻(骨盤底筋)を締めて体を丸めます。

薬物療法

過活動膀胱と診断された場合、女性では「抗コリン薬」による薬物療法が一般的です。これは過活動膀胱に用いる代表的な薬で、膀胱にあるムスカリン受容体と結合してアセチルコリンの神経伝達を阻止することで膀胱の異常な収縮が起きないように作用します。
しかし、膀胱に集まって効きやすい抗コリン薬が開発されて高い効果が期待できる一方で、膀胱以外の組織にもムスカリン受容体が存在するため、服用すると口の渇きや便秘、目の調節障害などの副作用が起きることが問題となっていました。

「β3アドレナリン受容体作動薬」(一般名ミラベグロン)は、こうした背景から開発された新しい薬です。口の渇きや便秘などの副作用はなく、強い尿意や頻尿、尿もれの症状に対しては、抗コリン薬と同等の効果があります。
ただし、使用する際には気をつけなければならないことがあります。ラットを使った動物実験で精巣や子宮の重量低下や萎縮がみられたことから、生殖可能な年齢の患者への投与は避けた方がよいとされています。したがって現在、治療対象は中高年以降の女性が中心になっています。

男性の場合、過活動膀胱の原因の一つは前立腺肥大症です。主な症状は「おしっこの勢いが悪い」「尿が途中でとぎれる」「出しにくい」というもので、尿道の通りが悪くなることで起こります。それに加えて約半数の人に「急に尿意をもよおして、我慢ができない」などの過活動膀胱の症状がみられます。
このような場合、治療では抗コリン薬は使用せず、まず「α1アドレナリン受容体阻害薬」が用いられます。前立腺や尿道の平滑筋を緩ませて、尿道の通りをよくするのです。これによって過活動膀胱の症状も治まってきます。
しかし、尿は出やすくなっても、過活動膀胱の症状が改善しない人もいます。そのときは、抗コリン薬に切り替えて膀胱の異常な収縮を抑えます。

代表的な市販薬

ハルンケア

効能・効果: 体力の低下、下半身の衰え、手足の冷えを伴う次の症状の緩和
  • 軽い尿もれ
  • 頻尿(小便の回数が多い)
  • 残尿感
  • 尿が出渋る
用法・用量: 成人(15歳以上)1回1本(30mL)もしくは、1包(2.5g)を1日2回、朝夕食前又は食間に服用してください。
  • 15歳未満の小児は服用しないでください。
  • 定められた用法・用量を厳守してください。

ハルンケア(内服液)ハルンケア(顆粒)

漢方薬・サプリメント

漢方の概念には、「気・血・水(き・けつ・すい)」というものがあります。「気」は生命エネルギー、「血」は血液とそのはたらき、「水」は血液以外の水分と考えられています。頻尿や尿もれなどの排尿に関するトラブルは、この3要素のうちの「水」に異常をきたす「水毒・水滞」によって生じる症状です。
こうした原因を作り出すのが、「水」の状態を調整している五臓六腑、「腎(じん)」です。腎といっても、腎臓というひとつの臓器だけを指すのではなく、排尿・排泄、水分代謝、ホルモンバランス、記憶力などを総合した働きを表します。腎の機能が衰える「腎虚(じんきょ)」という状態になると、「水」に関する異常が起こってくるわけですが、その一つの症状が排尿のトラブルです。

漢方の治療では、こうした腎虚、水毒・水滞、お血など排尿のトラブルの背景にある原因を探り、正常にして、頻尿・尿もれを改善していくことを目的にします。

八味地黄丸
(はちみじおうがん)
体力中等度以下で、疲れやすく、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿な方の排尿困難、頻尿など
牛車腎気丸
(ごしゃじんきがん)
体力中等度以下で、疲れやすく胃腸障害がなく、尿量減少又は多尿な方の排尿困難、頻尿など
猪苓湯
(ちょれいとう)
体力に関わらず使用でき、排尿異常がある方の排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿など
清心蓮子飲
(せいしんれんしいん)
体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感がある方の残尿感、頻尿、排尿痛など
小建中湯
(しょうけんちゅうとう)
体力虚弱で、疲労しやすく、頻尿および多尿などを伴う方の小児虚弱体質、小児夜尿症

尿もれ対策のサプリメントもたくさんあります。購入前に薬剤師に相談することをお勧めします。