
その158(2020年8月号)
- 薬局でもドーピングについて相談できると聞いたのですが・・・
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病気の治療のための医薬品や風邪薬などの市販薬、サプリメントなどの中にもスポーツにおいて禁止されている物質を含む場合があり注意が必要です。
うっかり使用しないよう、些細なことでも薬剤師に相談してください。
ドーピングって何?
ドーピング(Doping)という言葉は、南アフリカ共和国の原住民カフィール族が、地元の強い酒(Dop)を飲んで、戦いに挑んだことから始まったと言われており、スポーツ競技能力を高めるために禁止された物質や方法を用いることを指します。また、その使用の隠蔽、ドーピング検査の拒否も違反とされています。さらにコーチや監督などの関係者がドーピングを支援した場合にも罰せられることがあります。なぜドーピングがいけないの?
競技者の健康を害する
「クスリは毒である」「クスリにはリスクが伴う」とあるように、病気を治す効果と、一方で副作用という好ましくない作用もあります。ドーピングが原因で選手生命どころか生命そのものを失うこともあり、さまざまな後遺症に悩む例が数多く報告されています。フェアプレーの精神に反する
スポーツは、特有のルールに基づきフェアに行うからこそ価値があります。公平なルールがなければ、もはやスポーツではないのです。反社会的行為
ドーピングは薬物乱用にもつながります。
うっかりドーピングって何?
競技力向上を目的にドーピングで使用する薬物は決して特別な薬ではなく、病気を治療するために使用される医薬品も多く含まれています。たとえば市販の風邪薬や健康食品、サプリメントなどにも含まれている場合があります。これら禁止物質を含む医薬品などを、それとは知らずに病気を治療する目的で服用し、結果的にドーピング違反になってしまうことを「うっかりドーピング」といいます。残念なことに、うっかりドーピングで違反になってしまう選手が毎年数名いるのも事実です。

うっかりドーピングを起こしやすい医薬品
総合感冒薬(かぜ薬)
市販されている総合感冒薬の多くにドーピング禁止物質である興奮薬(エフェドリン、メチルエフェドリンなど)が含まれています。また、似たような名前の商品や、同じ商品名でも、「~K」「~A」「新~」などのように多種類ありますので、成分の確認が必要です。漢方薬・滋養強壮剤
漢方薬は、生薬から作られているため、安全と思われがちです。しかし、葛根湯にはマオウが入っており、興奮作用があるとして禁止されているエフェドリン類を含みます。また、胃腸薬には、同様に興奮作用により禁止されているストリキニーネという成分を含むものもあります。さらに滋養強壮剤と言われる栄養ドリンクやカプセルには、様々な生薬が含まれています。ジャコウやロクジョウなど、聞きなれない生薬が多く注意が必要です。これらは筋肉増強作用のある男性ホルモン関連物質を含んでいます。
毛髪・体毛用塗り薬
毛髪・体毛用塗り薬には、禁止物質である男性ホルモンが配合されているものがあります。普段から使用しないように心がけましょう。のど飴・トローチ
のど飴は、医薬品ではなく飴だから関係ないと思われている人も多いと思いますが、中には禁止物質であるメチルエフェドリンを含むものもあります。注意してください。サプリメント
サプリメントは補助食品の分類になります。注意点は、ドーピング禁止物質である筋肉増強剤やヒト成長ホルモンなどの医薬品を含む海外製品が「栄養補助食品」として販売されている点です。これは日本とその国の法律が異なることも一因です。そのため「食品」として販売されていたり、違法にホルモン薬などの医薬品が入っているものがあります。サプリメント購入時には、まず成分の確認が大事です。中には成分表示がない物や記載表示が実際の成分と異なる物もあります。海外製品など不明な点が多い物は購入しない方が賢明です。
サプリメントは薬ではなく食品であり、栄養バランスの改善や補助をしますが、栄養摂取の基本は、あくまでも食事です。
筋肉増強剤
筋肉増強剤(蛋白同化男性化ステロイド薬)使用によるドーピングの違反事例は、オリンピックやワールドカップなどの国際大会での報告が後を絶ちません。蛋白同化男性化ステロイド薬は、本来、処方せんがなければ手に入れることも使うこともできない薬物です。しかし、実際には筋肉増強剤を含んだ「クスリ」が町の薬局で売られていることがあります。中には、特別なルートを使って入手し選手に渡す医師や薬剤師、あるいはコーチや指導者がいると考えられています。
最近ではスポーツ雑誌の広告や通信販売、インターネット、個人輸入などの方法を用いて筋肉増強剤を入手する例も少なくありません。海外滞在中に自分自身での購入や、人から譲ってもらい国内に持ち帰る例もあります。
ちょっと質問したいこと
- ドーピング違反になったらどうなりますか?
- すべての競技結果は無効となり原則制裁を受けることになりますが、医療目的で治療を受けていることが証明されれば、軽減される場合もあります。
- 水をたくさん飲んで薬を薄めてもドーピングになりますか?
- わざと尿を薄めて禁止物質の検出を隠したり、分析の妨害をする行為があるため、尿の比重が屈折計で1.005未満の場合は、再度採尿を求められることがあります。
- 事前申請って何ですか?
- ドーピング禁止物質・禁止方法であっても、事前に決められた手続き(TUE:治療使用特例)をしてその申請が認められれば、例外的に薬を使用することができます。ただし、TUE申請が承認されなければ、治療の目的であっても禁止物質を使用した場合「ドーピング違反」と判断されることがあるので、十分注意して手続きを行ってください。また、禁止物質や禁止方法を使った後の申請は原則として認められませんので、事前申請を厳守してください。
