今月のくすり問答

薬の飲み方Q&A
その140(2019年2月号)
Q
市販薬は飲んでも、ドーピング違反にならないでしょうか?
A
市販のお薬やサプリメントにも、ドーピング禁止物質が含まれている場合があります。
ドーピング検査を受ける可能性がある場合は、薬やサプリメントを購入する前に薬剤師にご相談下さい。

ドーピングとは

ドーピングとは「スポーツにおいて禁止されている物質や方法によって競技能力を高め、意図的に自分だけが優位に立ち、勝利を得ようとする行為」のことです。

ドーピングはスポーツの土台であるフェア精神に反し、スポーツの社会的な信用を失墜させ、スポーツの価値を壊す行為です。さらに、ドーピングは健康上の被害を引き起こす可能性がある危険な行為もあります。

アンチ・ドーピングは、スポーツにおけるフェア、スポーツの価値を守る活動のことを言います。

ドーピング違反をすると

ドーピング検査で禁止物質の摂取が確認されると、当然ドーピング違反となります。ここで注意が必要なのは、どのような理由があったとしても、たとえば誤って1回だけ禁止薬物を摂取してしまった場合でも、検査結果が陽性になれば、規則違反に問われるということです。

規則違反を犯した場合、個人に対して大会成績の自動的な失効および原則2年または4年間の資格停止の制裁が課されます。また資格停止期間中は、競技会への出場、所属チームの施設利用や練習への参加は認められないなど、厳格な制裁が課されることがあります。

ドーピングについては下記のサイトもご覧ください。

禁止物質・禁止方法

ドーピングとして禁止されているものには「物質」と「方法」があり、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の「禁止表国際基準」に代表例として物質名が掲載されています。「常に(競技会、競技会外どちらでも)禁止」、「競技会の時のみ禁止」「特定競技において禁止」されるものに分かれており、主なものは以下の通りです。

常に禁止される物質と方法 [禁止物質]
無承認物質、蛋白同化薬、ペプチドホルモン・成長因子関連物質および模倣物質、ベータ2作用薬、ホルモン調節薬および代謝調節薬、利尿薬および隠蔽薬

[禁止方法]
血液および血液成分の操作、検体の改ざん、病院(治療目的)以外で受ける点滴、遺伝子ドーピング
競技会の時のみ禁止物質 興奮薬、麻薬、カンナビノイド、飲み薬や注射等で使用される糖質コルチコイド
特定競技において禁止される物質 ベータ遮断薬
※「禁止表国際基準」は毎年少なくとも1回は改定され、1月1日~12月31日までがその年の禁止表の有効期間です。

禁止物質を理解するには専門的な知識が必要な場合がありますが、アスリートやサポートスタッフが自分でその年の禁止物質を確認する方法としてThe Global Drug Reference Online (Global DRO)があります。
これは、アメリカ、イギリス、カナダ、日本のアンチ・ドーピング機関が協力して開設している禁止物質か否かを検索するサイトです。
また、一般の方が参考となる資料としては下記のものがあります。

公認スポーツファーマシスト

公認スポーツファーマシストは、最新のドーピング防止規則に関する正確な情報・知識を持ち、競技者を含めたスポーツ愛好家などに対し、薬の正しい使い方の指導、薬に関する健康教育などの普及・啓発を行い、 スポーツにおけるドーピングを防止することを主な活動とします。
所定の課程を修めた薬剤師が、(公財)日本アンチ・ドーピング機構(JADA)より認定される資格制度です。
公認スポーツファーマシストに相談することにより、より正確な情報が入手できます。

スポーツファーマシストを探すには

連絡先を公開しているスポーツファーマシストを検索できるサイトがあります。
身近なスポーツファーマシストを探して、日々アドバイスをもらえるようにしておきましょう。また、遠征や合宿先のスポーツファーマシストも事前に調べておくと、いざという時に便利です。
スポーツファーマシストが勤務する施設ではこちらのステッカーが目印として貼ってあることがあります。
認定スポーツファーマシストが在籍しています

TUE(治療使用特例)について

禁止物質を使わないと、どうしても病気の治療でできない場合などには、事前にTUE(治療使用特例)という申請を行い、認められれば禁止物質でも例外的に使用することができます。原則としてTUEが必要な大会の30日前までに申請する必要があります。
但し、以下の条件をすべて満たす場合に限って禁止物質、方法を使用することが可能になります。

  1. 治療上使用しなければ、健康状態に深刻な障害がもたらされる
  2. 治療上使用した結果、回復すると予想される健康状態以上に追加的な競技力を向上させない
  3. 他に合理的な治療法が存在しない
  4. その病気が、ドーピングによって生じたものでない

基本的には、使用する前にTUE申請書をJADA等へ提出し、許可が得られてからの使用となります。

申請方法については、次のサイトもご確認下さい。
また、国内のTUE事前申請が必要な競技大会一覧は次のサイトで確認できます。

漢方薬(生薬)とサプリメント

漢方薬は自然由来の原料からできており、飲んでも問題ないと思っている方もいるかもしれません。しかし、漢方薬を構成する生薬の中には、明らかに禁止物質を含むものがあります。 また、生薬の産地、栽培方法、収穫時期などで含有成分が変わるともいわれており、どのような生薬であっても、禁止物質を含まないと保証することはできません。

サプリメントも食品に含まれるので安全と思われるもしれませんが、医薬品とは異なり含有成分が商品表示にすべて記載されているわけではなく、表示されていない禁止物質を含む可能性があることに注意が必要です。最近のドーピング規則違反の事例では、サプリメントによるものが増加しています。特に海外や通信販売で購入する海外製品には注意が必要です。

この様な理由から、漢方薬やサプリメントの摂取はあくまでも「自己責任」で行うこととなります。

なお、サプリメントに関してはJADAの審査を経て禁止表に抵触しないとされた公式認定商品があり、商品には下の様な認定マークが印刷されていますので参考としてください。

うっかりドーピングをなくしましょう

禁止物質を含む医薬品やサプリメントなどをそれとは知らずに服用し、結果的にドーピング違反になってしまうことを「うっかりドーピング」といいます。薬を飲んだり、使ったりする前には「ドーピングは大丈夫か」とまず意識することが大切です。

医療機関を受診したり薬局などで薬を買う場合には、自分がスポーツ選手で、ドーピング検査を受ける可能性があることを、しっかりと医師や薬剤師に伝えた上で、使用するお薬について相談してください。判断に困った時は、公認スポーツファーマシスト、所属している競技団体や体育協会などに問い合わせるなど、自分の判断だけで使うことは避けてください。

アスリートの努力を無にする、うっかりドーピングを無くしていきましょう。