今月のくすり問答

薬の飲み方Q&A
その191(2023年5月号)
Q
経口補水液とは何ですか?
A
経口補水液は失われた水分と塩分を効率的に補給できる飲料です。
これからの暑い時期、熱中症予防のために経口補水液を活用しましょう!
経口補水液は脱水症状の予防や改善に有用な飲料です。今回は、とくに熱中症に着目して経口補水液の効果を見ていきます。

近年、熱中症対策として経口補水液の重要性が喧伝されています。それは温暖化の影響で熱中症の被害が拡大しているからです。熱中症の被害を防ぐために、正しい知識をもって適切に対処できるようになりましょう。

増加する熱中症の被害

地球温暖化に伴い、熱中症による死亡者が増加しています。1993年以前は年平均67人だったのが、1994年以降は年平均663人と増加しており、近年は1,000人を超える年が続いています。日本は適切な熱中症対策をしなければ危険な環境になってしまったのです。

経口補水液がなぜ熱中症対策に効果的なのか?

熱中症とは体温が上がりすぎて身体がオーバーヒートしてしまうことです。ふつうなら、暑い環境でも汗をかくことで体温を上手に調整できます。しかし、脱水などの原因により汗をうまくかけないと熱中症の危険性が高まります。見落とされがちですが、汗には水分だけでなく塩分も含まれています。熱中症対策には水分補給に加えて塩分補給が重要です。

経口補水液は汗の塩分濃度と同等の0.3%の塩分を含みます。このため、失った水分のみならず、塩分を効果的に補給することができます。似た効果を持つスポーツドリンクの塩分濃度は0.1%です。熱中症のリスクが高い状況では塩分補給の点で経口補水液がより効果的です。

どのくらいの水分と塩分を失うのか?

夏のランニングでは1時間当たり約1.4リットルの汗をかきます。この時、失われる塩分は1時間当たり約4.2gです。ハードな運動ではかなり大量の塩分が失われることがわかります。
ランニングほどはではない温室での農作業の事例を見てみましょう。外気温30度で1時間あたり約0.7リットルの汗をかきます。この時、失われる塩分は1時間あたり約0.6gです。高温環境では軽負荷の活動でも塩分が失われることがわかります。長時間の作業では水分補給のみならず塩分補給をしないと危険です。
また、ある調査では高齢者宅の11.5%が適切な暑さ対策がなされず、温室と同等かそれ以上に危険な環境にあったとの報告もあります。このような環境では水分のみならず多くの塩分を失っていることは想像に難くありません。

適切に水分・塩分を摂取しましょう

夏の高温環境では水分を大量に失うのと同時に多くの塩分を失うことがわかりました。熱中症の危険性が非常に高くなるといわれる28度以上の気温での活動は非常に危険です。ランニングなどのハードな運動のみならず、農作業などの日常的な作業でも、経口補水液などを利用し、適切に水分・塩分を補給して熱中症を防ぎましょう!
また、31度以上の気温ではすべての生活活動が危険な状態です。家の中であっても扇風機やエアコンを活用し室温を適切に管理しましょう。

なお、経口補水液を熱中症のリスクがない時にむやみに用いるのは、塩分過多になる可能性があるため注意してください。


【参考文献】
  1. 厚生労働省 熱中症予防のリーフレット
  2. 環境省 熱中症予防サイト 熱中症環境保健マニュアル2022
  3. 汗の塩分濃度と膵臓の機能 Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.35, No.1 (March 2012)
  4. 運動時の水分補給に関する変遷ならびに日本における運動習慣のある若年成人の現状と課題 筑波大学体育科学系紀要
  5. 中年ランナーにおける夏季ランニング時の体重減少の実態 日生気誌42(4):134-144,2005
  6. 夏期暑熱環境下ハウス栽培作業時における農業従事者の体温調節反応 日生気誌53(2):95-103,2016
  7. 訪問リハビリテーション利用者の居宅における熱中症リスクについて Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)